工藤直子さんは昆虫や動物だけでなく静物とも交信できる異能者。スプーンがため息をつくのを耳にし、落とした鍋蓋の痛みを案じ、ドアノブに叱られる。あとがきっぽい末文「そういうことか」では「人間とのおしゃべりよりも、モノや風景相手が多いかもしれない」と披露されてある。なにかと人間関係にうんざりな現代人のお手本たりうる交信録として読もう。
彼女は(人とのおしゃべりが少ないとしても)決して寡黙なひとではなくて「だまってても・しゃべりたおしている」多言語話者なのである。
付けたりになってしまうが、針金主役のオブジェがまた愛くるしい。