2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧
今(平成30年)読んでハズレのない、すこぶる面白い警察小説を書く一人に違いない。タイトルを目にしたときからずっとサクラが気になったまま読み進めても、一向にサクラは登場しないんだけれど、最後にストンと胸に落ちる。今作もハッピーエンドではないが…
とてつもなく明快で、わかった分だけ興奮する名著。執筆依頼から2年半もかかってる間に、重力波検出という歴史的事件が世間をさわがせ、かれの研究の進展と世間のニーズがともに高まったのは幸運の極みだ。表現をかえれば、天の思し召しとさえ言えそうなグ…
間違いを犯す人間を絶対肯定してみせる楽天家の珍説本(?)かとおもわせる書きぶりながら、最後に待ち受けるのは怖い未来図だった。人類がしでかしてから気づいた最大の間違いはインターネット・ミームに歴史の主役を明け渡してしまうことなんだ。 著者紹介…
冒頭でベルトルト・ブレヒト『英雄論』の一節を引いてある。 名言のない時代は不幸だが、名言を必要とする時代は、もっと不幸だ。 1973年新装版の寺山修司本。活字もイラストも印刷はすべてチョコレート色で、イラストは裏面から透けて見えている。寺山修司…
川端康成からの手紙を持っているという噂のあろ大叔父の旅に同行することになった主人公。そんな設定だけでわくわく。いくつもの小説が引用されつつ会話が繰り広げられていくが、川端康成の手紙のうわさの真実やいかに。……なんてことより気掛かりなのが、印…
昨日の話の流れで読んでみた。定説に疑問を呈するのはよいとして、可能性という推論に推論を重ねたうえに、だんだん強気になって「ちがいない」といい、ついには断定的に私見をもってくる。大胆不敵な一冊。そのくせ最後は、「新資料発掘まで、最終結論は留…
もしもわたしの好かん著者の本が一冊でも採り上げられていたら断じて読むまい、と心に誓って手にしたところ、実に期待を裏切らない好著だった。昨今、歴史好きの人間受けするような新説・珍説本が本屋の棚を埋めているのは、ある意味では愉しいんだけれど、…
数日前紹介の分厚い本『ゲーデル,エッシャー,バッハ』の著者ダグラス・ホフスタッターが認知科学のプロとして、万人にとっての「つかみどころのない私」について前著より努めて平易に書こうとした挙げ句、再度ぶあつい本を書いてしまったという落語みたいな…
スーパーマーケットの鮮魚売り場で、痛ましく見えてしまった鰊(にしん)の姿から生まれたという、わたしのお気に入りの詩一篇をまずはご紹介。 題・春告魚 そんなにも目を血走らせてまで 告げようとした春というのは どんな春なのだろう うろこを無残に剥が…
率直に言って、何がテーマなのかすらさっぱりわからんのに、おまけのフリした挿話群が読んでいて愉しい奇書である。きっかけは単純にエッシャーの絵と訳者柳瀬尚紀さんが好きだから、それだけ。柳瀬さんがこの書について「本や苦」なんて駄洒落を披露してい…
哲学が量子物理学の領域に首を突っ込んで出来た一冊。本文はわずか40ページだが、付録としてのマヨラナの論文ほか一篇の数学論考(ジェロラモ・カルダーノ著)および解説が120ページもある。これってお得感があるようで実は無いのだ。(俗に言う文系と理系の…
死友と呼ぼうか。死神の類ではなく、まるで格別親しくもない友のように、そばに死がゐる青春。どの詩にもそんな空気が漂っている。かれ(堀田善衛)の生きた時代の戦禍を明示した作品はほとんどなく、なにげない日常風景のなかに"ゐる"感じ。 「暁はまだ遠い…
童話作家のほかに多彩な顔を持つ庄野英二が自ら装丁・装画も手がけた回顧録は明治・大正・昭和にまたがる偉大な作家たちの群像劇そのものだ。坪田譲治・島崎藤村・井伏鱒二・佐藤春夫らとのエピソードに、時代の熱気を感じる。一番の驚嘆は、かれの記憶力。…
ゲーテもシラー、ヘルダーリンも読んだこと無い人は大損だよ。まず本書を読んで思いっきり後悔しよう。著者相沢那織子さんの言う通り、名前はよく知っているのに肝心の詩をきちんと読んだことがない、そんな近寄りがたい偉人について、作品観賞ではなく軽や…
哲学とは何なのかを知らない人におすすめの一冊。著者は「新しい哲学」を提唱するっていってるが、わたし的には哲学者の数だけ新しい哲学があるとおもう。そもそも。。。って問い直す哲学の起点はその時その時の政治哲学に対する反発なんだね。そういう意味…
文書記録とナマの臨場感。2方向からのアプローチがあればこそ、のほほんと報道を見聞きしてきた(わたしをふくめた)日本国民にインパクトを与えてくれる。ありがとう。 本誌掲載の写真はほとんどモノクロだが、ちょうど真ん中あたりの8ページだけ、ウガンダ…
芭蕉が聞いた音の世界を想像して、翁の俳句から開口母音の数量解析するなんてユニークな手法には驚いた。それでも総括してみると「あまりにも当然すぎる、平凡な結論」と冷めたまとめをしている。職業:作曲家、音楽評論家、音楽学者の柴田南雄さんの日本音楽…
対話形式で進行する本書の登場人物は2人。一人はサトウ博士(著者自身)で相方はショウコさん(妻)という設定。妻の紹介文は「食べることと楽しいことが好き。夫の研究内容にはあまり興味がないが、長いウンチク話は妻のつとめとして聞いてあげることにし…
「筆洗」は東京新聞のコラムの名称。担当記者としては先代の堀古蝶(俳人でもある)が聳えていて、同名の書がシリーズである。林伸太郎の本書の評価はやや低いみたいだが、わたしは好き。さらりと読みやすいので軽く見てしまいがちだが、精緻な組み立てを毎…